休日にライターのようにラグビーの取材をすることもある(けど最近お休み気味)

平日は私企業で営業マン、休日は時々ラグビーイベントとかの取材をしている30代男性のブログです。でも最近は本とか映画とかの話が多いです。

本の逆襲/内沼晋太郎

本の逆襲 ideaink 〈アイデアインク〉

本の逆襲 ideaink 〈アイデアインク〉

ざっくり言うと

本の定義は拡張し続けている。
インターネットが普及した現代において、
出版業界の未来は暗いかもしれないが、本の未来は明るい。
「本」についてもう一度、固定観念にとらわれずに考えてみよう!

思うこと

本を売る、ということを考えるのであれば、
例えば商品をユーザーに届けるということについて必死になっていたメーカーの人に比べて
出版業界はあまりにだらけていたのかもしれない。
もしかして「マーケティング」だったり、「顧客志向」だったり、
他の小売りで至極当たり前と思われていることが、この業界では行われてこなかったのかもしれない。

本というモノの選択肢が広がっていること。ゆえに新しいものも生まれうるということ、
また本の未来を創っていく人は、もしかすると出版業界の外にいる人、周縁にいる人の中から出てくるのでは、とも感じた。
(内沼さんも「本」にはどっぷり関わっている人ではあるけれど、「出版業界の人」って感じはしないし・・・)

詳細

■はじめに
「出版業界の未来≠本の未来」である。本の未来は明るい。
今や「本」は「出版業界」の外に拡張していて、様々なことが起こっている。
これはここ最近の安易に「滅ぶ」とか、「なくなる」といった言説に対する本の「逆襲」なのではないか。

本の未来を考えるとき、考えるべき「本」の範囲は、
人が本と触れるときのすべて、新刊流通以外の「本」、インターネット上のものなどを含めあらゆるコンテンツ・サービスについてである。

■第1章 本と人の出会いを作る
内沼氏のこれまでの経歴について。
就職活動時期に『だれが「本」を殺すのか』をきっかけに、出版社、取次、書店など、出版業界のプレーヤーは、
本を読む習慣がすでにある人に「この本の面白さ」を伝えるのに精いっぱいで、
「本というものの面白さ」を伝えていないのでは?という考えに至る。
人と本が出合う「あいだ」の部分にはまだやれることがあるのでは?とぼんやりと考えてた。

その後就職するも、すぐやめて古本好きの仲間と「ブックピックオーケストラ」というユニットを結成。
「文庫葉書」をはじめとした様々な取り組みを行って、アパレルショップに本を並べる機会に恵まれたり、とそこから色々つながって現在。

文庫葉書は、読まない人にとって本に関する情報が多すぎるのでは?という発想から、
本にまつわる多すぎる情報を一つに絞る/一節を引用して切り出して流通させることを意図した。

「本」はもはや定義できないと考えている。本の歴史を考えても、電子書籍の前からゲームノベルみたいな形式のものもあったし、
そもそも付録付きムックみたいなものも従来の「本」の枠組みではとらえられない。
「本」はコンテンツとコミュニケーションを飲み込んで領域を拡大している。
自身の活動として、本の「何を」守りたいのか、
「どこが」なくなってほしくないのか考えながら、臨機応変にやっていきたいと考えている。

■第2章 本は拡張している
「紙の本ができるまで」を例に一般的な出版流通の仕組みを説明
→一般の「小売り」とは異なる事情…多品種少量生産再販制度などなど…その特殊さはメリットでありデメリットであった。 
取次を通しつつも書店以外で本を扱うための壁には、例えば商品管理の煩雑さ、利益率の低さ、保証金といった事情があり、
ゆえにこの方法でアパレルショップなどで「新刊書籍」を扱うのは難しい状況がある。

もちろん取次を介した出版流通の外にも本はある。
例えば
・古本
・同人誌
・ZINEと呼ばれるような小冊子
・出版社の直取引
など。
そして最近では電子書籍も。デジタルオンリーのものも出てきているし、
雑誌を再編集したものやセルフパブリッシングなども出てきている。
そもそも、電子書籍と既存のデジタルコンテンツの境目もあいまい。
スマホのアプリ課金系のコンテンツもあるし、紙の本もデジタルコンテンツも、本もゲームもツール類も分け隔てなく受容している。

また近年はコンテンツよりもコミュニケーションの時代と言われる。
同じコンテンツに熱狂して、それをネタにコミュニケーションする時代から、コミュニケーションそのものが目的になっている時代
…cf.「Webはバカと暇人のもの」…ネットのコンテンツはいかに「バズる」か。いじられる志向、話題になる志向のコンテンツ。

Web本棚、ソーシャルリーディングもこの「コミュニケーション志向」の文脈で捉えられる。
今後はさらに本が「インターネットに溶けていく」のではと考えている。

■第3章 これからの本のための10の考え方
これからの本を考えるために現時点で整理した10個の切り口について解説。

1.「本」の定義を拡張して考える
電子書籍Twitter本、三省堂の本棚カレーなどなど。
例えば対談等で「.mp4」だったものが、「.pdf」になる過程のどこでそれは「本」になるのか
→「本」を狭い定義の中に押し込めずに、あれも本かも、これも本かも、と考えることが必要。

2.読者の都合を優先して考える
例えば「自炊」…やっている人は出版社にとってはある意味「優良顧客」であるような、
普段から本を読んでいて、「本を置くスペースがない」とか「もっと便利に読みたい」などのニーズがある人では?
電子書籍DRMにしても「出版業界の都合」に囚われるあまり、「読者の都合」を無視していないか。
まず考えるべきは「読者の都合」からではないのか。

3.本をハードウエアとソフトウェアとに分けて考える
音楽=ハード(CD、mp3、etc)とソフト(音楽そのもの)は別モノだったが、
紙の本はハード(紙の束)とソフト(コンテンツ)を兼ねたものだった。

電子書籍だとそれが「別」になる、と捉えられてしまうと、ハードルが高くなってしまうのでは?
本が拡張している中で、どの「ハード」にどんな「ソフト」を「どうやって」届けるのかを筋道を立てて考えなくてはならない。
例えば「スマホが本になりうる」と考えれば潜在的な読者は増えているとも言えるのでは。
→ではスマホに最適な「本」は??って流れ。

4.本の最適なインターフェイスについて考える
インターフェイス=コンテンツと人の間を仲介する方式という意味で考えると、
コンテンツによって最適なメディアやインターフェイスは異なる。

例えば辞書は電子化することで検索という手段を得て、最適化したと考えられる。
あるいはゲームも元々アナログ(すごろくとか、花札とか、トランプとか)だったものが
インターフェイス的にデジタルに向いていた分、早く電子化したともいえる。

インターネットの普及によって生じた意図には、「検索したい(デジタル化)」「宣伝したい、販売したい」「共有したい」などが挙げられる。
また、地図のインターネット化(GPSスマホ)が進む中で、
今後は「体験したい」…行動と直結する、行く・食べる、聖地巡礼、ARなど…も進んでいくのではないか。

5.本の単位について考える
ひとつの「論点やナラティヴ」こそが本の最小単位である、と「Wired」誌編集長のケヴィン=ケリーも述べている通り、
「本」は百数十ページないとダメ、というものではない。Cakes・マイクロコンテンツも出てきているし。

コンテンツに合わせて最適な単位を想定できる一方、
極端に「短かい・長い」を設定することで新たなコンテンツが生まれることもある→Twitter,Vine など

6.本とインターネットとの接続について考える
情報誌・小説・エッセイなど、そのコンテンツの内容・意図などによって様々なインターネットとの接続の在り方が想定できる。
デジタル化のメリットは、電子的な処理・ネットワークを介してデータをやり取りしてコミュニケーションが取れることで、
本・パッケージの中身こそが接続すべきもので、パッケージそのものをインターネットに置くことが重要なのではない。
→場所を取らない、とか、どこでも買ってすぐ読める、は本とインターネットが接続されることの本質ではないのでは?

もちろん本のすべてが「接続」を志向するものではないが、作り手の発想として紙を選ぶのか、デジタル(オンライン)を選ぶのか、を持つべき。

インターネットのほうは本に対して接続を志向する傾向が強いと言える…グーグルブックス、ソーシャルリーディングなど。
本の未来はインターネットとの接続によってダイナミックな可能性が開かれていると同時に、著作権とマネタイズがハードルになっている。

7.本の国境について考える
デジタル化のメリットとしてもう一つ、国境を越えやすくなる(物理的な問題がなくなる)…マーケットの拡大でもある
日本語だけでは成り立たないものも、英訳とプラスすると成り立つとかも考えうる
翻訳に関してもクラウドソーシングなどのコストを下げる方法も見つかっている。

8.プロダクトとしての本とデータとしての本を分けて考える
3とは別で、
・データとしての本…本の中身、デザイナーがまとめて出版社が入稿するデータとしての本
・プロダクトとしての本…データに外身、形あるモノの状態(例:紙の本の形になっているもの)

デジタル化によって、「紙」以外の素材がありうるようになってことで、
「紙」という素材、「本」というプロダクトの特性を改めて意識させられた。

データだけが流通して、それぞれが望む形のプロダクトに落とし込まれる(3Dプリンターみたいに…)
傾向は世界的なものになると考えられる。
そんな中で、本の売り方も変化…1つの本が複数のバリエーションになる可能性も
→例えば、「バッファロー5人娘」はコルクからKindle(571円)、祥伝社から紙の本(1,470円)、豪華本(特典付10万円)

9.本のある空間について考える
「本を並べること」には例えばアパレルショップやカフェなどではブランディング
待合スペースなどではコミュニケーションの場にしたい、といった意図がある。

「本」によるコミュニケーションには、コミケ(売買)、ビブリオバトル(本遊び)、
幸世の部屋(映画「モテキ」と絡めたキャンペーン)など、色んな形がある。
本のある空間にはいろんな可能性をもたらすことができるのでは。

10.本の公共性について考える
「本は書店で買われるもの」は、長い目で見ればここ最近の特別な傾向とも考えうるのでは?
→歴史としては公共財として扱ってきた図書館とかのほうが長い
 知識=公共財とするならば、小売りとしての書店の形式のほうが特殊?
 そもそも売り物ではない、という前提に立つと違って見えてくるかも


■4章本の仕事はこれからが面白い
定有堂という書店の奈良敏行さんの定義…「書店→空間 本屋→人、媒介者」。
これに賛同する。しかも本は拡張しているので、色んな「本屋」がありうると思っている。書店を持たない本屋もアリ。

これからの街の本屋として「B&B」を始めた。
本屋×イベント×ビール×家具を根っこに、「本屋はメディア」を本気でやっている。
他にも本のある暮らしを作るBIBLIOOHILIC、など。
「書店で売ることができる本以外のものは何か?」と考えることにはたくさんの可能性があると考えている。
…すでに取次が取り組んでいる課題でもある

編集や出版の側も本を作ることだけが出版の仕事ではなくなってきている。

本は読まれることで完成するモノ。新しい形が、新しい「読み」を産むことができるはず。
そういう可能性にもワクワクするし、本に関わる人も増えてほしいと思っている。