これが日本30年のスポーツノンフィクションや!的な。/肉体の鎮魂歌/増田俊也編
キュウソネコカミという若手バンドの歌に「お願いシェンロン」というものがあって、「これが中国4000年のリフ(ギターなんかで繰り返されるフレーズ)や!」という歌詞があるのですが、タイトルはそこから思いつきました。
大宅壮一ノンフィクション賞受賞、「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」の増田俊也氏セレクトによる、スポーツノンフィクション10選。ラグビーの話は出てきませんが、スポーツ絡みということで、ご紹介。
肉体の鎮魂歌(レクイエム) (新潮文庫) : 増田 俊也 : 本 : Amazon.co.jp
いま、あえて紙媒体で出すスポーツノンフィクションにふさわしい質感のある作品は何か。過去の作品を時系列に追っていくと、日本においてスポーツノンフィクションの歴史=Numberの歴史である、と選者の増田氏は言います。1980年の創刊、そこに描かれた「江夏の21球」。試合のシーンとともに甦るそのときの自分自身の姿…と言っても、時の流れとともに、読者にとっては「自分が生まれる前の話」が増えていくわけで、それでも伝わる文学作品たりうるスポーツノンフィクションとは?そういうことを考えながら選ばれた、10編の物語。
種目は野球、マラソン、総合格闘技、ボクシング、柔道、サッカー。各種目のことをそこまで深く知らなくても引き込まれてしまうのは、それぞれが持つ物語の強さゆえ。明るく元気に前向いて…という感じはないのだけれど、それでも続いていく毎日と闘っていく強さが感じられます。
悪い意味ではなく「ザ・ジャパニーズ・スポーツノンフィクション」、という感じがするというか、じゃあ海外のそれを読んだことがあるのか、というツッコミを受けると反論できないのですが、連綿と続く通奏低音のようなものが聞こえてくる短編集です。
それは常に勝者にあたるスポットライトではなく、その周辺にいる人たちにも届く柔らかな光。あるいはスポットライトの影。どんな人にも物語がある。そんなことを改めて感じさせてくれる一冊でもありました。