休日にライターのようにラグビーの取材をすることもある(けど最近お休み気味)

平日は私企業で営業マン、休日は時々ラグビーイベントとかの取材をしている30代男性のブログです。でも最近は本とか映画とかの話が多いです。

日本紙パルプ商事 書店経営事業参入の衝撃

本が売れない。
少し前に「出版不況は本当か?」なんて記事も出ていたけれど、紙の本の売り上げが厳しいことは確か。
2014年上期の推定総販売金額は前年同期比−5.9%で、他業種と比べてどう、というところは置いておいて、
様々なコンテンツとの時間の奪い合い*1の中で、確実に「本」の売り上げは減少し、
それに伴い「書店」の数も減少を続けている。

アルメディアによる14年上半期の書店の出店・閉店調査によると、
119点が新たに出店した一方で、393点が閉店。差し引きしてざっくり考えると、今日もどこかで2件ぐらい書店の看板が降ろされている。

そんな逆風に人力で対抗するボートのように*2飛び込んできた衝撃のニュースがコレ。

日本紙パルプ商事株式会社は、このたび、新会社を設立し、複合書店経営事業に参入することを決定しました。

正直、なにおう!ってなもんである。

新会社は、現在、2015年春に、一号店を出店すべく、準備を進めております。
同店では、本と雑貨を同じ棚に陳列したり、お買い上げ前の本をカフェスペースで軽食と共に試読いただいたりするなど、既存の書店のスタイルにとらわれない取り組みで、訪れた方が本をじっくり選べる空間をご提供する予定です。また、カフェスペースにつきましては、サイン会、トークショウ等のイベント会場としての貸し出しも予定しております。

当社といたしましては、このような場の提供を通じて、紙メディアの新しい可能性を追求するとともに、一般消費者のニーズを把握することで、洋紙の販売事業との相乗効果に繋げていきたいと考えております。

http://www.kamipa.co.jp/news/release/343 日本紙パルプ商事ニュースリリースより

はて?日本紙パルプ商事?という方も多いと思うのですが、
知る人ぞ知る紙卸業界の巨人、紙業界唯一の一部上場企業、紙の卸売がメインだけど製紙・加工もやるし、
電力とかも手を出しつつ、海外進出もしてるもんねー、というのが、まぁ、日本紙パルプ商事=JPさんです(ちょうざっくり)。

主要な業務としては、国内外の製紙メーカーさんから紙を買い、出版社や印刷会社、別の紙問屋への販売を行っており、個人的にも大変お世話になった会社です。

ならばこそ、の衝撃なのですが、なぜ「紙屋が書店」なんでしょうか、ということです。
この焼け野原、あるいは地雷原みたいなところへ喜び勇んで参入してくる彼らの意図と勝機はどこに?というのを、
ここ数日間必死に考えていました。

おそらく出版営業本部のマーケティングチームがメインで管轄するのかな、と思うのですが、
出版社に営業に行きこそすれ、また書店に行けば表紙やカバーの紙を思わず調べてしまいこそすれ、
紙屋さんと書店さんの直接の関係ってそこまでない、と実体験も踏まえたうえで、思う。
むしろお客さんの出版社の本を優先的に並べなアカンとか、とある文庫は常にコンプリートしてるとか、妙なしがらみを心配してしまう…。


・書店の経営が出版社との関係強化になるのかなんとも言えない。
・まして取次とは本業でほとんど絡みがない。
・少なくとも書店経営に関するノウハウを持ってたり、人材がいるとも思えない。
・ただでさえ書店は今苦しい。
という状況下でどういう経営判断で書店事業への参入を決めたのか…。どれだけ考えてもわからない。
例えば多様な働き方を確保するための口を作っとく、とかいうのは人事の裏テーマとしてあるかもしれないけれども、
純粋に事業として何か成功が見込める策があるのか!?と疑問なわけです。
で、どーも漏れ聞こえてくる限りでもそういうアイデアがあるわけでもなさそうな・・・。


なので、
・書店についてはおそらく素人がメイン*3
・紙屋というお隣の業界からの参入で
・たぶん資本はある
という条件下で、自分ならどんな本屋をやるかな、ということを考えてみました。


そもそも本という商品は差別化が難しい商品。価格差もつけられないし、原則どの書店でも扱えるタイトルは同じ。
JPさんが書いているようなカフェスペースがある書店、というのも蔦屋書店をはじめ、数こそ少ないものの、すでに存在しててる。むしろスタバとかはもう抑えられています。
そして単にオサレで綺麗な新刊書店を作ったとしても、代官山蔦屋やでさえ収益が上がっているのかわからない時代、まして本の知識を持った精鋭が集められるかわからない状況ではなおのこと、苦しい。

そんな中で成功するとすれば「なぜこの書店で買うのか」、
カフェ事業を収益の柱にするとしても「なぜのこの書店に行きたいと思うのか」、理由が必要だと思うのです。
つまり、オープンする書店に「どんな文脈を持たせるか」。
例えば下北沢のB&Bのような「ビールが飲める本屋」、閉店してしまいましたが、松岡正剛の空間としての「松丸本舗」のように、
ほかの書店にはない「違い」を作らなくてはならない、と考えます。

まず考えられるのは本社の特長を生かした書店。
例えば、LIXLやTOTOなどのギャラリー併設の書店は建築やら美術、デザインなどのタイトルが充実しています。
ただ、正直なところJPさんで何かこのキーワード!というのが思いつかない…*4

あと今頑張っている新刊書店さんがどういうことをやっているか、というと、
店員さんの棚作りであったり、地域への密着だったりが挙げられます。
つまりいかに魅力的な棚を作り、ある意味店員さんの顔が見えるような、親しみを持てる店にするか、というとこかなぁ、と。


そこで考えたのは、「棚を作れる人がいないなら作ってもらおう、教えてもらおう」的なアイデアです。
つまり、人の家の本棚を覗くような気持ちになれるような、色んな人の本棚を再現した棚で作る書店。

新刊書やいわゆる普通の書店スペースに加え、
印刷会社のプリントディレクターや、出版社の編集長、デザイナーなど、紙関連でのお付き合いのある方々、
あるいはまったく関係なく話題の小説家や学者さん、タレントさんなどによる「○○さんの本棚」をいくつも作る。
松丸本舗や天狼院書店さんでもやってますし、既存の書店さんでもフェアなどでたまに見られる取り組みではありますが、
それを一定規模の大きさで、常設で、というのはウリになるのではないかと思います。

著名な人だけではなくて、一般の方から公募するのも面白いかもしれません。あなたも本屋体験!みたいな…。
*5


まぁメンテが大変そうとか思ったりするんですが、
いずれにせよ、日本紙パルプ商事さんという業界内のようでいて、異業種からの書店事業参入。
ある意味参入する企業がいることそのものが大歓迎なことであり、
理由なんてどうでもいい、どこか聞いたことがあるような「既存の書店にとらわれないスタイル」でも、
どこにどんな本屋さんがオープンするのか、そこでどんな人が働くのか楽しみにしよう!と思っています。*6

ほんとに茶化しているわけでも皮肉を言っているわけでもなく、純粋にいったいどうなるのか、注目しています。
さてさて、来年の楽しみが一つできたぞー。

*1:http://d.hatena.ne.jp/KenAkamatsu/20140906/p1 より【娯楽商品はつまるところ消費者の時間の奪い合いであり、しかし人の時間は有限なので、「実際に消費できる以上の数を、まとめ買いしてもらう」ことは非常に重要なのであります。】

*2:日本紙パルプ商事王子製紙と毎年ボート大会を開催している

*3:先日内沼晋太郎さんのところで人材募集してたのがこれだったら面白いなぁとか思っていますが…

*4:同じ紙屋でも竹尾のようなデザイン業界で名が知れて、学生さんとかにも知ってもらえてるところなら、「竹尾が選ぶデザイン書専門書店」というブランディングができたかもしれませんが

*5:電子書籍ではありますが、ReaderStoreなんかは一般ユーザーがおすすめした本が買われるとポイント還元、みたいなことをやっていますが、どれぐらいウケてるんだろう

*6:なんだったらカフェでバイト経験もあり、紙屋の勤務経験もあり、現在は出版社にいる人材を高給で雇ってもらえまいかと思ったりもします