休日にライターのようにラグビーの取材をすることもある(けど最近お休み気味)

平日は私企業で営業マン、休日は時々ラグビーイベントとかの取材をしている30代男性のブログです。でも最近は本とか映画とかの話が多いです。

【読書】「なんだ広告かよ」の先へ行くために、その歩みを知る/ソーシャルメディア四半世紀

前WIRED編集長、若林恵さんが、SNSがマネタイズフェーズを迎えたときに、「なんだ、広告モデルかよ」とがっかりした、という話をされていました*1

 

「個人をエンパワーする」というSNSの本質を実現する、その先のモデルはあるのか?私企業である以上は無理なのか?個人的にも興味がある話ではありますが、それを考えるヒントになりそうなのか、この本です。

ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ

ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ

 

ウェブ日記、ブログ、口コミサイト、SNSソーシャルゲーム――。
かつて夢に見たウェブの進化はどこへ向かったのか?

価格.com@cosmeはてな食べログGREEmixi、etc..
著名ネット起業家の声から国内ソーシャルメディアの25年間を振り返る壮大な記録! 
国内ソーシャルメディア企業の「これまで」を俯瞰し、
「これから」のネット関連ビジネス+社会+メディアの羅針盤となる、
いちばん新しいインターネットの歴史書

◆気鋭の情報社会学者が2001年から5年おきに計4回、国内主要ネットメディア企業に行った定性調査から
各社のユーザーコンテンツ(UGM)事業の勃興盛衰を詳述したネットの産業史的な色合いもある作品。

◆対象事業者は、価格.com@cosmeはてな食べログ、グリー、mixiニコニコ動画、pixiv、
レストランガイド、みんなの就職、映画生活等を含む。取材対象者は、@コスメ吉松徹郎、グリー田中良和、
はてな近藤淳也、メルカリ山田進太郎ほか著名起業家たち約50人。

タイトルの指す「ソーシャルメディア」とは、いわゆるTwitter,Facebookなどに代表されるそれだけではなく、価格.com@cosmeなどのユーザー投稿コンテンツを活用しているメディアも含めて、指しています。2000年前後のWeb黎明期から現在、そして将来への展望がまとめられた、500ページを超える大著ではありますが、読みごたえも十分な一冊。

 

本書を読み終えて約1か月あまり。改めて思うのがウェブのマネタイズに「広告モデル」の先はあり得るのか、という話です。それこそ本書で登場するメディアは、「ユーザーコンテンツ」が原資になっているからこそ、ユーザーからお金は取らずに……という発想だった話なども、当時のインタビューの言葉で紹介されていきます。

97年に出た「ネットで儲けろ(NET GAIN)」において、ネットの収益モデルとして、以下の3つが挙げられています(本書でも紹介、深く掘り下げられています)。そして基本的にそれは今も変わらないと考えてよいでしょう。

1.ユーザー収入:会費/利用料、個別料金などを取るもの

2.ベンダー収入:広告、取引手数料

3.メンバー情報:メンバー属性、利用状況、購買特性データの販売、レンタル 

ネットで儲けろ

ネットで儲けろ

 

 結局早い段階で「1」は諦められ、「2」「3」のモデルの中で、タイトル通り四半世紀を過ぎました。その背景には「1」の直接ユーザーから収益を得ることの難しさもありましたが(ソシャゲガチャを除く)、2005年頃のサーバーなどのチープレボリューションや、Google アドセンスをはじめとするコストがかからない広告収益モデルができたことで、どうしてもチャレンジしないと立ち行かない、という状況もあったのかな、と思ったり。

それで世の中いい感じに回ってればよかったんですが、一般的な意味でのSNSが勢力を伸ばし、ウェブの閲覧はスマホが中心になり……という世の中で、斎藤環氏の言う「毛づくろい的コミュニケーション」、本書で言うところのウェブの「身内化」「コミュニケーション化」が進み、重要だから・信ぴょう性が高いから、ではなく、共感した・面白いから、で情報が拡散される時代になって、広告モデルであるが故の問題が顕著になってきたことは、直近のフェイクニュースなどの話、WELQ問題を出して説明する間でもないでしょう。そうでなくても、口コミの不正投稿や、グレーなインフルエンサーマーケティングなどがもたらしたウェブは、まさに「ググってもカス」な状況を生み出してしまいました。

 

さて、本書にはイントロダクションとしての、インターネット前史のユーザー投稿コンテンツをもとにしたメディアの話、最初期のユーザーサイトの話に続いて、2001年/2005年/2010年/2015年の4つのフェーズに分けて、ウェブをめぐる状況を定点観測し続けた話のあと、第5部として「結論、そして2018年の風景から情報ネットワーク社会を設計する」という野心的な章があります。

内容にはおおむね同意するものですが、しかしなかなか厳しいとしか言いようのない現実を前に、例えば10年後に、私たちは「広告」から先に行けるのだろうか……そのとき、どんなウェブを、ひいてはどんな社会を生きているのだろうかと、ウェブやコンテンツを作っている会社で、まさに広告モデルの実践者として営業をしている我が身を振り返りながら、胸に手を当てながら、ぐったりと考えてしまうのです(こんな仕事早くなくなればいいのに)。

 

それはやはりどこかで「ユーザーからの収入」をいかにして得るか、という難題にもう一度挑むことになるのだと思うのです(それこそはやく積んだままの「サブスクリプション」を読むべきなのだ)。

その時希望になる言葉は、スチュアート=ブラントの「情報はフリーになりたがっている」に続く言葉として本書にも紹介された、「正しい場所に存在する情報はある者の人生を変える。それは非常に価値のあるものだから、高価になりたがっている」 という話につながっていくのかもしれません。

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

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